渡辺通の「BISTROT Kuwabara(ビストロクワバラ)」。フレンチレストランという意外なシチュエーションにも神棚があります。理由を尋ねると「ここを住吉(神社)さんにお祓いしてもらったんですよね。それで、やっぱり日本人なので神棚が必要かなと。うちのじいちゃんが信心深い人で、その祖父の祖父(桑原さんからすると高祖父)が、神仏習合の原点・六郷満山の文化が残る大分の国東半島で神職をやっていたそうで、いつも神棚などを見たりお供えの手伝いをしよったからですね」とオーナーの桑原さん。「忙しくて何もできてないけど、それでも毎日会釈して帰ります。あとお客さんが来た時に問題提起できるじゃないですか、なんでこんなところに神棚があるんだと。みなさんに大事なんだよってことを分かってもらえたらなと、そういう気持ちもあります」。
桑原さんは何事に対してもその文化を大事にします。「学生の頃バイトしていたレストランが当時日本になかったビストロ(フランスの大衆食堂)の文化をちゃんと伝えていてかっこよかったんです。そのお店には、学生の頃と社会人になったあと2度働かせてほしいと頼んだのですが、叶わず自分でこの店を始めました。ここはバヴェットステーキとステーキフリットに絞って出しています。これはフランスの国民食なんです。でもきっと代表的フランス料理としてすぐに思い浮かべる人は少ないでしょう。こういうキーワードが少しでも浸透して、いずれ子どもでもすぐに思い浮かぶくらいになれば、自分が人生をかけてやる意味があると思うようになりました」。またこうも続けます。「肉を仕入れてさばいて塩胡椒して焼いて出すだったら、ある程度訓練を積めばきっと誰でもどの家庭でもできるんです。でもソースは出汁を引かないといけない。時間がかかるし煙も出るし根気もいる。そして、最後の味を舌で決めるまで詰めなきゃいけない。そういうものは家庭じゃできない」。そうしてできたソースをステーキにかけ、皿の中でフランス料理のスピリットを感じてもらう、それが自分の存在意義と、桑原さんは語ります。
フランス人と日本人の感覚は近いところがあるといいます。例えば豚肉。爪は使わないにしてもそれ以外のところは、耳をテリーヌにしたり、豚足を茹でてきれいに皮とゼラチンを取ってカリッと焼いてステーキにしたり、骨の髄まですべて活用するといいます。そうしていただいた命を大事にする精神性も、出汁によって知ってもらえたらと、桑原さんは語ります。
文化を大事にする態度、それが神棚を置くことにも表れているようでした。図らずもスピリットという共通点で、フランス料理と神棚の文化が深く通じあうひと時でした。
BISTROT Kuwabara(ビストロクワバラ)
http://www.bistrotkuwabara.com/